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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)86号 判決 1980年10月09日

控訴人・附帯被控訴人(被告) 神田税務署長

被控訴人・附帯控訴人(原告) 神田橋第一ビル株式会社

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  本件附帯控訴に基づき、

(一)  原判決中、控訴人(附帯被控訴人)が昭和五〇年一月三〇日付でした被控訴人(附帯控訴人)の昭和四四年一二月一日から昭和四五年一一月三〇日までの事業年度の法人税についての第三次更正処分(ただし、昭和五〇年三月一八日付で減額更正された後のもの)のうち、欠損金額控除前の所得金額を五億八六二一万五一二三円として計算した額を超え、同じく五億八八九二万四三二八円として計算した額までの部分につき取消請求を棄却した部分を取り消す。

(二)  (一)掲記の更正処分のうち同掲記の部分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、第二審を通じてこれを二〇分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴について

1  控訴人(附帯被控訴人。以下単に「控訴人」という。)

(一) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人(附帯控訴人。以下単に「被控訴人」という。)の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

2  被控訴人

控訴棄却の判決

二  附帯控訴について

1  被控訴人

(一) 主文2同旨

(二) 訴訟費用は、第一、第二審とも控訴人の負担とする。

との判決

2  控訴人

附帯控訴棄却の判決

第二当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり訂正又は付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目(記録二〇丁)裏九行目から一一行目までを次のように改める。

「三 しかしながら、

1 右一連の各更正処分は、一貫して、被控訴人の後記損金処理を否認している点においていずれも違法である。

2 四五事業年度の法人税に係る更正処分は、次の点で違法である。

すなわち、被控訴人はかねて控訴人により青色申告の承認を受け、右事業年度の確定申告も青色申告書をもつてしたところ、課税標準を更正した更正通知書(後記損金処理を否認した第一次更正に係るもの)には右損金処理否認の理由として別紙一のとおりの理由が附記されているのみで、この附記理由からだけでは、何故に貸し付ける相手方から取得した資産は、事業の用に供した資産に該当しないのか到底理解することが不可能であるのみならず、理由附記を命じた立法の趣旨であるところの、処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせ不服申立の便宜を与えるという観点からしても、右更正通知書による更正は、法人税法一三〇条二項所定の理由附記を欠いた違法がある。

2  同六枚目(記録二三丁)裏九行目の「これに伴い、」から同七枚目(記録二四丁)表二行目までを次のように改める。

「これに伴い、被控訴人が減価償却超過額として益金に算入した一一〇五万三八三〇円については、右超過額が二七〇万九二〇五円に減少することとなつたので、右一一〇五万三八三〇円を益金から減額するとともに、右二七〇万九二〇五円を益金に加算した。」

3  同九枚目(記録二六丁)裏一行目「賃借しているが、」の次に、次のとおり加える。

「その結果は、利息の負担が賃料の負担に変形するに過ぎず、他に本件買換資産を売却しなければならない特別の事情は存しなかつた。そして、」

4  同八行目「貸し付けていたので」の次に、次のとおり加える。

「(都自動車としてもその経営上資金調達を被控訴人に求めざるを得ない事情にあつた。)」

5  同九行目「資金的余裕は」から同一〇行目「ものであり、」までを、「資金的余裕はなく、また買換資産取得の予定もなく、本件買換資産の取得は四五事業年度に至りにわかに実現したものであり、」と改める。

6  原判決一〇枚目(記録二七丁)表一行目「からである。」を次のとおり改める。

「からであるが、本件買換資産は都自動車にとつて業務上不可欠の資産であることは前述のとおりであるから、被控訴人としてはそれを都自動車に一括して貸し付ける以外に運用の方法はなかつたものである。」

7  同二行目「そうしてみると、」の次に、次のように加える。

「本件譲渡資産の譲渡は、当初から都自動車に対する貸付資金の調達が目的であり、被控訴人は右譲渡代金による本件買換資産の取得を当初から企図したものではなく、」

8  同裏四行目「本件買換資産の取得は、」から同五行目「ものであるから、」までを、次のとおり改める。

「以上述べた事実関係を総合判断すれば、被控訴人の本件買換資産の取得は、その実質において、被控訴人の都自動車に対する長期貸付金の一部弁済としての取得、すなわち代物弁済であるのに、専ら課税繰延べを図ることを目的として、単に法形式として売買の形を採つたに過ぎず、代物弁済としてしか認定できないものであるから、」

9  原判決一一枚目(記録二八丁)表二行目の次に、次のように加える。

「3 更正通知書の附記理由について

被控訴人主張の更正通知書に附記された圧縮損(建物圧縮記帳引当金を含む)否認に係る理由が被控訴人主張のとおりであることは認める。しかし、控訴人のした被控訴人指摘の更正理由に係る各損金計上の否認は、被控訴人の帳簿書類等に記載の事実それ自体を否認したものではなく、その記載から認められる客観的事実を基礎として、その事実関係の下で旧措置法六五条の五第二項の規定に基づく課税の特例の適用を認めるか否かの法律判断をしたものであり、このように、ある事実を基礎とする法的判断については、更正通知書に附記する理由において事実と法的判断の結論のみ示せば足り、それ以上にそのような結論をとるべき根拠まで示す必要はないし、現に被控訴人は、附記された理由の内容が右にとどまつたことにより、不服申立の便宜は少しも奪われていない。」

10  同一五枚目(記録三二丁)表七行目の次に、次のとおり加える。

「さらに、国税庁長官は昭和五四年一〇月一八日付で『直法二―三一法人税基本通達等の一部改正について』との通達を発し、右改正前の法人税基本通達において『買換資産を当該法人の事業の用に供したことの意義』の(6)として別紙二の上欄のとおり記載されていたのを同下欄のとおり改正し、『当該貸付ける相手方から取得した当該資産を除く。』とあつたかつこ書を削除した。したがつて、通達上一般的には、貸付ける相手方から取得した資産であつても、その貸付が相当な対価で継続的に行われる限り、事業の用に供した資産に該当することとなつたのであり、控訴人において右貸付を『事業の用に供した』ことに当たらないと主張することは、右通達に違反し、国家行政組織法一四条二項及び国家公務員法九八条一項に違反する。」

11  同一六枚目(記録三三丁)表一〇行目の次に、次のように加える。

「仮に、本件買換資産の取得及び貸付が租税回避と目されるとしても、租税法律主義の法理上、課税庁は明文の規定なくしてこれを否認することはできない。また前記法人税基本通達は、買換資産の譲渡人が元の状態のまま賃借している場合も『事業の用に供した』ことに当たることを明らかにしているから、控訴人がこれを租税回避行為と断ずることは右通達に違反し、国家行政組織法一四条二項及び国家公務員法九八条一項に違反する。」

12  同一七枚目(記録三四丁)表二行目の次に、次のように加える。

「仮に右のような主張が許されるとしても、被控訴人が本件買換資産の取得に伴いとつた行為は民法五〇五条の相殺であり、旧措置法施行令三九条の六第二項が代物弁済と規定している以上、右は民法四八六条の代物弁済を意味し、右代物弁済に相殺が含まれることはない。もし含ませようとするならば、明文をもつて規定することが租税法律主義の要請であり、そのような明文がないのに、納税者が選択した相殺を代物弁済として扱うことは租税法律主義に違反する。」

13  同三行目と四行目の間に、次のように加え、同四行目に「一」とあるのを「二」と、原判決一八枚目(記録三五丁)表六行目の冒頭に「二」とあるのを「三」とそれぞれ改める。

「一 被控訴人の反論二2について

国税庁長官が被控訴人主張のように法人税基本通達を改正する通達を発したことは認める。しかし、本件のように専ら圧縮記帳の適用を受けることを目的として行なわれた貸付が『事業の用に供した』ものとは認められないことは、右通達改正の前後を通じていささかも変りはない。」

14  原判決一七枚目(記録三四丁)裏五行目「このように」から同九行目までを、次のとおり改める。

「また、被控訴人は前記貸付金により都自動車から年利一〇パーセントの利息を得ていたのであるから、本件買換資産の管理費用の負担を考慮すると、貸付金が本件買換資産に振り変つたことは被控訴人にとつて必ずしも有利な資金運用とはいえない。このように被控訴人の一連の行為は、営利を目的とする会社の行為として著しく経済的合理性を欠くものであり、本件買換資産の売買が会社としての事業目的に副つた事業上必要な取引であつたとみることはできず、この点からしても、本件買換資産の取得及び貸付が本件譲渡資産の譲渡対価に係る特別勘定繰入額の益金算入を回避する意図でされたものであることは明らかである。」

15  同一九枚目(記録三六丁)表四行目の次に、次のように加える。

「仮に更正通知書の附記理由との関係で何らかの主張制限があるとの考え方をとつたとしても、旧措置法六五条の五第二項の規定に基づく課税の特例適用のための各要件事実につき訴訟法上主張立証責任を負うのはその適用を主張する納税者であり、訴訟において納税者が主張する右各要件事実の存否について課税庁が争い得るのは当然であり、その各事実が通知書に附記された事項に係るものであるか否かにかかわらない。本件に即していえば、控訴人が更正通知書に附記した理由は本件買換資産を事業用に供したとは認められないという点だけであるが、控訴人としてその余の各要件はすべて認められると判断したわけではなく、また更正通知書にそのような判断を示したわけでもない。控訴人は本訴において、これに加えて本件買換資産の取得が旧措置法六五条の四第一項所定の取得に該当しないこと(取得原因が代物弁済であること)を主張しているのであつて、この主張は通知書の附記理由と矛盾するものではなく、ともに特例適用の要件事実の欠如を主張しているのである。仮に被控訴人主張のように通知書に附記した理由以外は訴訟において主張できないというのであれば、課税庁は、更正時にあらかじめ訴訟のことを配慮し、考え得るあらゆる理由を更正通知書に記載して置く必要があることになり、その不当なることは明らかである。」

16  証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所の認定判断は、次のとおり訂正するほか、原判決が理由として説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決二六枚目(記録四三丁)表一一行目から同裏六行目までを次のとおり改める。

4 また、控訴人は、本件買換資産の取得は、その実質において、代物弁済であるから、旧措置法六五条の五の適用は受けられないと主張する。

しかし、右主張が青色申告書に係る更正の附記理由との関係において許されるか否かの点はさておき、口頭弁論の全趣旨によれば、控訴人の本件買換資産の取得が売買の形式を通じてなされたことが明らかである一方、本件にあらわれた全証拠をもつてしても、右売買が仮装のそれであり、真実は代物弁済であつたとの事実を認めることはできないから、右売買は真実のそれであつたと解するのほかはない。そして、納税者が他から不動産を買い受け、納税者の代金債務と納税者が売主に対し有する既存の債権との相殺を行なつた場合において、これと同様の経済的目的を納税者と右相手方との間の代物弁済契約によつても達し得るとしても、右売買及び相殺を目してことさら不自然、不合理な行為ということはできないから、当事者が真実に売買を行ない、相殺を行なつたものである以上、たとえそれを選択した理由が旧措置法六五条の五の適用を受けることにあつたとしても、それだけで明文の規定もないのに課税庁において、その実質が代物弁済であると認定して、これによる買換資産の取得につき右法条の適用がないとすることはできないというべきである。」

2  同裏九行目「なお、」から原判決二七枚目(記録四四丁)表八行目までを次のとおり改める。

「そうすると、被控訴人の圧縮記帳に係る二億一八四二万六三三〇円(建物圧縮記帳引当金一億三九一七万二六二五円及び土地圧縮損七九二五万三七〇五円の合計額)は、損金としてこれを本件更正処分(二)の欠損金控除前の所得金額から減算すべきであり、またこれに応じて本件更正処分(二)に当たり益金から減算された減価償却超過相当額一一〇五万三八三〇円を加算し、益金に加算された二七〇万九二〇五円を減算すべきである。右によつて計算すると、被控訴人の四五事業年度における欠損金控除前の所得金額は五億八六二一万五一二三円となる。」

3  同二七枚目(記録四四丁)表一一行目「本件更正処分(二)は」から同裏二行目から三行目にかけて「取り消すこととし」までを次のとおり改め、同五行目「)」の次の「、」を「。」に改める。

「本件更正処分(二)は、その余の点について判断するまでもなく、欠損金額控除前の所得金額を五億八六二一万五一二三円として計算した額を超える部分が違法であるので、この限度で本件更正処分(二)を取り消すべきである。」

二  してみると、原判決が本件更正処分(二)のうち欠損金額控除前の所得金額を五億八八九二万四三二八円として計算した額を超える部分を取り消したのは相当であるが、右所得金額を五億八六二一万五一二三円として計算した額を超え、同じく五億八八九二万四三二八円として計算した額までの部分についての取消請求を棄却したのは失当であり、控訴人の控訴は理由がないが、被控訴人の附帯控訴は理由がある。よつて、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八四条、三八六条、九六条、九二条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川義夫 三好達 柴田保幸)

別紙一

第一次更正に係る更正通知書の附記理由

1 損金にならない圧縮記帳引当金 一三九、一七二、六二五円

特定資産の買換を適用し、上記引当金を損金としていますが、貸付ける相手方から取得したものは、事業の用に供した資産に該当しません。従つて都自動車(株)から購入した建物は同社に引続き貸し付けているものであり圧縮記帳の対象になりません。

2 損金とならない圧縮損 七九、二五三、七〇五円

1と同様の理由により損金算入は認められません。

別紙二

昭和五四年一〇月一八日付直法二―三一「法人税基本通達等の一部改正について」による法人税基本通達中の六五―七(2)―一「買換資産を当該法人の事業の用に供したことの意義」の(6)の改正内容

改正前

改正後

(6)他に貸付けている資産(その貸付を受けた者がその貸付の目的に応じて使用していない場合及びその使用の状況が(1)、(2)の本文、(3)、(4)及び(5)の後段に該当する場合の当該資産並びに当該貸付ける相手方から取得した当該資産を除く。)は相当の対価を得て継続的に行われるものに限り、当該法人の事業の用に供したものに該当する。

(6)他に貸付けている資産は、その貸付が相当の対価を得て継続的に行われるものに限り、当該法人の事業の用に供したものに該当する。ただし、その貸付を受けた者が正当な理由なく当該資産をその貸付の目的に応じて使用していないこと、その貸付を受けた者における当該資産の使用の状況が(1)、(2)の本文、(3)、(4)及び(5)の後段に該当すること等の事情があるため、その貸付が専ら圧縮記帳の適用を受けることを目的として行われたと認められる場合は、この限りでない。

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